百聞は一見に如かず。
理屈や説明を百回聞くよりも、一回の事実を目の当たりする方が、
人の心には刺さる、という意味のことわざです。
このことわざ、果たして本当なのか。
昔聞いた、ある先生のエピソードが興味深かったので、
簡単にご紹介したいと思います。
その先生は子ども達に教える傍ら、
自身でもフィールドワークに盛んに取り組み、
原始時代に行われていたような、
丸太に細い木を擦り付けて火をおこす実験をしていました。
何十回も実験して、苦労の末にやっと着火に成功し、
その研究の成果を子ども達の前で披露しました。
子ども達にもこの苦労を知ってもらおうと、
彼ら自身にも木による着火の実験をさせてみました。
ところが、どの子も一回で簡単に着火してしまうではありませんか。
「自分は何十回もかかったのに、子どもは一発で点けてしまった」と、
先生は悔しがりました。
そしてリベンジ。
今度は別の子ども達に、お手本を見せずに実験させました。
子ども達は、理屈も動作もわかっている状態で実験するのですが、
ただ一つ前回と違うのは、先生の成功例を見ていないこと。
ところがこれが大きかった。
前回とは異なり、誰一人として火を点けること叶わず。
何回やっても誰も点けられないことを確認すると、先生はお手本を見せました。
すると今まで出来なかったどの子も、一回で着火に成功したのです。
まさに、百聞は一見に如かず。
子どもは経験が少ないため、物事それぞれの因果関係を知りません。
理屈では理解していても、実体験として経験していないので、
原因から結果にいたるまでのリアリティが薄いのです。
実はこのことが教育に大きく関係してきます。
いわゆる「褒めて伸ばす」という教育法。
練習などの地道な作業には成長を自覚できる要素が少なく、
成功体験を得にくいものです。
モチベーションを上げるために「ご褒美」で誘っても、
身が入らない子どもが多いのも現実です。
それは「やる気」にはなっていても、「やれる気」になっていないため。
行動の結果として得られる成功を、現実のものとして感じられていないのです。
そして、一回の成功体験は、百回のお説教に勝る。
「やる気」にさせるのは「ご褒美」ですが、
「やれる気」にさせるのは「現実味」です。
「やれる気」にさせるためには、出来るだけ細かくゴールを設定し、
1つクリアするたびに褒めてあげる、というのが効果的でしょう。
クリアするたびに自身の成長を感じ、成果を得る喜びを感じることで、
次の課題もクリアしようという「やる気」と、
クリアできるはずだという「やれる気=自信」が備わってきます。
長期的に頑張り続けるモチベーション(やる気)と、
難題にも挑戦する自信(やれる気)が養われることで、
子ども達は成長し続けることができます。
小さなお子さんの教育に携わっている方は、
ぜひ「やれる気」を培ってあげてください。
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